Art / Photographers who tell about photography
5通りの視点、感情、被写体、個々の
特色。5人のフォトグラファーの仕事
を特徴付ける5つのキーワードは、
p at ienc e(忍耐)、ref le ct ion(反
射)、chance(チャンス)、form(フォ
ルム)、ti me(時)。フォトグラファー
の真のターゲットは被写体であっ
て、カメラのボディに装着された便利
なデバイスではない。本当の被写体
は、フォトグラファーの頭の中や、描
くイメージのアイデアの中であった
り、シャッターを切る前に観察した
りして、チャンスを見出すフォトグラ
ファーの目の中で横たわっている。
つまり、写真とは、ひたすら待つ事、
熟考する事、決定的なシャッターチャ
ンスを捉えたり、人々からの賞賛の
為に自らを捧げる事で明らかになる
意思である。
ここでは、5人のフォトグラファーの
作品とその意図、そして、例証を挙げ
ながら、それぞれの特徴を解説して
いく。
PATIENCE, WEERAPONG CHAIPUCK
数え切れない程、沢山の写真に収められてきた
風景。
元医師という経歴を持つ、タイ出身のウィーラポ
ン・チャイパックは、アジアの伝統と自然の美し
さを被写体に、それらを写真の中に写し出してい
る。独特な視点と鮮明な色合い、風景の中で彼
が見出す自然の質感、これらが彼の写真の特徴
である。あたかも、彼がここだというポイントに予
めカメラを設置していたかのように、ただひたす
ら忍耐強く待ち続け、彼の故郷の大陸が見せる
壮大でいて細やかな風景の美しさを、ここぞとい
う瞬間で捉えている。フォトグラファーにとって、
事前調査は欠かせない。ベストシーズンがいつで
あるのか、もしくは、自分の目が捕らえた被写体
に最適なレンズを選別する為にである。そうやっ
て、ほんのわずかな一瞬のタイミングを捉えるの
である。
REFLECTION, MATT BLACK
フォトグラファーには、待機する時間と考える
時間とが存在する。
マット・ブラックの目的と意図とは、カリフォル
ニア州の、とりわけシリコンバレーとハリウッ
ドの間に位置し、彼が居を構えるセントラル
バレーの、明らかな貧困要因である、農業と
移民の相互関係を調査する事である。2015年
に彼がインスタグラムで立ち上げたプロジェク
ト、The Geography of Poverty(貧困の地
理学)は、アメリカの貧困地図の提供を目的と
した、場所が特定された写真と統計データ
を明らかにするデジタルドキュメンタリーであ
る。ブラックは、集団的道義心の欠如で見捨
てられたコミュニティーや、貧困や恵まれない
人々の存在を浮き彫りにする事を、じっくり考
え予見する為に時間を費やして来た。5人に
1人が貧困に喘ぐアメリカで、スポットライト
を浴びることのない場所に考えを巡らせなが
ら、西海岸から東海岸まで、彼はアメリカ全土
の旅を続ける。
CHANCE, ALEX WEBB
起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。
もし、アレックス・ウェッブが1970年代半ばにハイ
チのポルトープランスに行っていなかったら?
もし、彼がモノクロから離れて、混沌として当惑さ
せられる激しいカラー写真に変えるべきであるこ
とに気付いていなかったら?ウェッブは、それまでそ
の場の状況に順応し、被写体にレンズを向けて、
彼が見ているものに身を任せて来たのである。
当時、彼はメキシコとアメリカの国境沿いを旅す
る中で、カメラのフレームに次から次へとシーン
を収めて来た。これといった目的を持っていたわ
けではない。ただ単に偶然の出来事を待ち続け
ていたのである。彼はその理由について、「何が
起こるかなんて、誰にも判らないからね。」と、話
している。彼の場合、完璧なショットに辿り着く
まで、目の前の現実をじっと観察しながら、的確
な場所で、適切な構図を手に入れるのである。
FORM, ALEXANDER YAKOVLEV
真意は、可能な限りそれを表現するフォルムの中
にある。
モスクワ在住のアレクサンダー・ヤコブレフは、
彼が行って来た研究や自らの経歴の影響から、
人本主義者となり、人間性を人体の形で表現し、
理解したいと願うようになった。それゆえ、人体
の動きの表現を写真で描く事に身を捧げる決心
をしたのである。彼がレンズを向けるのは常に筋
肉が躍動しているダンサーで、写真の中で幾何
学的な人体の曲線に永遠性を与える。彼の写真
の特異性は、人体の湾曲とポーズを捉える能力、
つまり、ダンサーの力強さが人体の調和を表現
する瞬間を捉える能力にあるのである。
TIME, DIAMOND NIGHTS BY BETH MOON
生命の風景。変化の目撃証人となるために。
アメリカに生まれ、その後、養子縁組で英国人と
なったフォトグラファーのベス・ムーンは、常に樹
木に対して大きな情熱を抱いて来た。彼女の作
品は、樹木の観察、研究、理解、進化などを含ん
だ研究プロジェクトが基盤になっており、単なる
研究資料とは全く別物である。彼女は、そのプロ
ジェクトで、樹木の成長は、天体、宇宙線、星の
周期と、明らかに密接に繋がっているという自然
の法則の発見を導き出している。そして、樹木を
求め、ナミビアや南アフリカ、ボツワナにまで足
を伸ばし、満天の星空を背景に、まるで何もない
ところに突然樹木が出現したかのようなファンタ
ジックなシーンを、写真に収める事に成功した。
Diamond Nights(ダイヤモンドナイト)と名付けら
れた同プロジェクトを、彼女は次のように述べて
いる。古代樹木に見とれていると、私たちの知覚
時間は広がり、自然と生命の変化と私たちとの
関係を、もっと強く意識するようになるのだと。